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東京地方裁判所 平成2年(ワ)6212号 判決

原告

安藤文男

被告

河野章一

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して二一一万七九三八円及びこれに対する平成二年一月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して三五九六万六六〇五円及びこれに対する平成二年一月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  本件事故の発生

1  日時 昭和六三年一一月二五日午前八時二五分ころ

2  場所 東京都大田区下丸子二丁目一三番一号先多摩川土手下道路T字状交差点(以下「本件交差点」という。)上

3  加害車両 被告江嵜明宏(以下「被告江嵜」という。)運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)

4  被害車両 原告運転の自動二輪車(以下「原告車」という。)

5  事故態様 本件交差点で、多摩川を遡上する方向で進行していた被告車が急に右折しようとして、同方向に直進中の原告車の進路をふさいだため、被告車と原告車が衝突した。

二  責任原因

1  被告江嵜は、被告車を右折させる際に、右折合図を出さず、中央に車を寄せて右折態勢を取ることなく、急に右折し、原告車の進路を妨害して本件事故を起こしたから、民法七〇九条により、原告が本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告河野章一(以下「被告河野」という。)は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供する者であり、また、被告江嵜の使用者であり、本件事故は同被告がその業務執行中に起こしたものであるから、自賠法三条、民法七一五条により、原告が本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1  入院雑費 二三万七六〇〇円

原告は、本件事故により左上腕骨骨折の傷害を負い、東京労災病院で昭和六三年一一月二五日から平成元年五月九日まで入院して治療を受け、以降同年八月六日までリハビリのため同病院に通院(通院実日数六日)して治療を受け、同月七日から一か月間抜釘のため同病院に入院して治療を受け、同年九月二八日症状固定して治療中止となつたが、これら二回にわたる同病院への入院中(合計一九八日間)に必要とした一日当たり一二〇〇円の雑費の合計二三万七六〇〇円である。

2  通院交通費 一万円

原告が前記通院治療のため必要とした交通費(タクシー代)の合計一万円である。

3  逸失利益 三一三七万二七七四円

原告は、本件事故による傷害のため左肩関節部に後遺障害等級一〇級一〇号に該当する機能障害が残り、労働能力の二七パーセントを喪失したから、原告の平均月収五六万二二七六円を基礎に、三九歳から六七歳までの労働可能期間二八年間の逸失利益をホフマン方式、係数一七・二二一で求めると三一三七万二七七四円となる。

4  慰謝料 六八〇万円

(一) 入通院慰謝料 二三〇万円

(二) 後遺障害慰謝料 四五〇万円

5  物損 二三万四四八九円

本件事故により原告車が破損し、その修理のために要した修理代金二三万四四八九円である。

6  弁護士費用 三〇〇万円

7  以上損害額合計 四一六五万四八六三円

8  填補 五六八万八二五八円

填補後損害額合計 三五九六万六六〇五円

四  よつて、原告は、被告らに対し、連帯して三五九六万六六〇五円及びこれに対する症状固定後の平成二年一月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する認否

一  請求の原因一項の1ないし4は認め、5は右折中の被告車と直進中の原告車とが衝突したことは認め、その余は否認する。

二  同二項の1は否認し、2は被告河野が被告車を所有し、自己のために運行の用に供する者であること、また、被告江嵜の使用者であることは認める。

三  同三項の1は原告が本件事故により左上腕骨骨折の傷害を負つたこと、東京労災病院に原告主張のとおり入通院して治療を受けたことは認め、その余は知らない。2は知らない。3は争う。なお、原告の昭和六三年度年収額は四八六万三六五〇円であり、後遺障害は後遺障害等級一二級六号に該当するものであつて、その労働能力喪失率は一四パーセントを超えないものであり、今後原告の稼働状況に応じて改善される見込みが充分ある。4は争う。5、6は知らない。7は不知ないし争う。8は認める。

四  同四項は争う。

第四抗弁

本件事故は、被告車が本件交差点を右折するため同交差点手前一五ないし一六メートルの地点で右折合図を出し、減速したうえ、右折を開始したにもかかわらず、原告車が速度をあげ、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止なのにもかかわらず、禁止線を越えて被告車を無理に追い越そうとして事故にあつたものであり、原告には、重大な過失があるから、少なくとも八割の過失相殺をすべきである。

第五証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  請求の原因一項の1ないし4については当事者間に争いはなく、5のうち右折中の被告車と直進中の原告車とが衝突したことについては当事者間に争いはなく、右争いのない事実と成立に争いのない乙第二号証の二ないし四及び乙第四号証、本件事故現場付近の写真であることに争いのない乙第五号証及び乙第七号証、原告本人尋問及び被告江嵜本人尋問の各結果によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場道路は、第二京浜国道方面からガス橋通り方面へ通じる通称多摩川土手下通りで、道路幅員は約七・八メートルであり、歩道(幅員約一・三メートル)等が設置され、車道は上下各一車線(ガス橋通り方面へ向かう車線幅員約二・七二メートル、第二京浜国道方面へ向かう車線幅員約二・九メートル)で、アスフアルト舗装され、平坦で、見通しはよい。交通規制は、速度制限四〇キロメートル毎時、駐車禁止(終日)、道路中央部分に黄線が引かれて追越しのため右側部分はみ出し禁止とされている。

2  被告江嵜は、その使用者の業務執行のため、建築用材等を積載して被告車を運転し、第二京浜国道方面からガス橋通り方面へ向け、幅員約二・七二メートルの本件道路を走行し、交通整理の行われていない本件交差点で右折しようとしたが、被告車の車体が長いこともあつて、あらかじめ道路中央に寄ることはせず、同交差点手前で右折の合図をなし、減速しただけで、同交差点で右折を開始したところ、右後方約一九・五メートルの地点に原告車を認め、危険を感じて急制動の措置を取つたが及ばず、道路中央から約〇・三メートル対向車線に入つた地点で、被告車を原告車に衝突させた。

3  原告は、原告車を運転し、第二京浜国道方面からガス橋方面へ向け、時速約三〇キロメートル前後で、連続して低速走行している前車の右側方を追い抜きながら走行中、前方約三・三メートルの地点で被告車が右折しているのに気付き、危険を感じてハンドルを右に切り、制動を掛けたが及ばず、前記衝突地点で原告車を被告車に衝突させた。

右事実によれば、被告江嵜には右折する際、被告車を道路中央に寄せることをしなかつたから、被告車の右折意図を的確に把握することなどができずに、後方から道路中央寄りの通行余地部分を単車等が走行してくることもあることを予想し、後方の安全を充分確認して右折すべき注意義務があるのに、後方の安全を充分確認しないまま右折した過失があるから、民法七〇九条にもとづき原告が本件事故で被つた損害を賠償すべき責任があり、被告河野が被告車を所有し、自己のために運行の用に供する者であること、また、被告江嵜の使用者であることについては当事者間に争いはなく、本件事故は前記のとおり同被告がその業務執行中におこしたものであるから、被告河野は、自賠法三条、民法七一五条にもとづき原告が本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  損害

1  入院雑費 一九万八〇〇〇円

原告が本件事故により左上腕骨骨折の傷害を負つたこと、東京労災病院に原告主張のとおり入通院して治療を受けたことについては当事者間に争いはなく、右争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六三年一一月二五日から平成元年五月九日までと平成元年八月七日から同年九月六日までの入院期間中諸雑費を要したことが認められるところ、原告の右傷害の部位、程度等から入院雑費として一日当たり一〇〇〇円、一九八日分の合計一九万八〇〇〇円が相当と認められる。

2  通院交通費 一万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、前記東京労災病院への通院(通院実日数六日)のため、交通費を要したことが認められるところ、前記傷害の程度、通院回数等から、通院交通費として通院往復で一二回分の合計一万円が相当と認められる。

3  逸失利益 一四〇七万三〇〇三円

成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第四号証、甲第五号証、甲第八号証、甲第九号証、甲第一〇号証、甲第一一号証、甲第一三号証の一ないし五、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故の傷害による後遺障害として、左肩の運動制限(屈曲他動右一八〇度・左一一〇度、同自動右一八〇度・左一〇〇度、伸展他動右六〇度・左四〇度、動自動右六〇度・左四〇度、外転他動右一八〇度・左八〇度、同自動右一八〇度・左八〇度、内転他動右〇度・左〇度、同自動右〇度・左〇度、外旋他動右八〇度・左マイナス二〇度、同自動右八〇度・左マイナス二〇度、内旋他動右九〇度・左六〇度、同自動右九〇度・左六〇度)が残存し、左肩に疼痛があり、頭に手が上がらない、後ろに手が回らない、高い所に手が届かない、重たいものが持てないなど諸動作を充分に行えず、このため原告の職業である配管工事をする場合などに、その作業性が悪いなどの不便があり、レントゲン写真にて骨頭の不整を残していることからしても、改善される見込みは少ない。原告の右後遺障害の内容、程度、従事する仕事内容等からすれば、今後の学習効果を考慮するとしても、原告は少なくとも労働能力の一四パーセントを、その労働可能期間である三九歳から六七歳までの二八年間喪失ないし制限されたものとするのが相当と認められ、原告の収入は、少なくとも年額六七四万七三一二円を得ることができたものと認めるのが相当であるから、原告の逸失利益の現価をライプニツツ方式、係数一四・八九八で算定すると一四〇七万三〇〇三円となる。

4  慰謝料 四五〇万円

(一)  入通院慰謝料 二〇〇万円

前記傷害の部位、程度、入通院の期間、回数等諸事情を考慮し、二〇〇万円が相当と認められる。

(二)  後遺障害慰謝料 二五〇万円

前記後遺障害の内容、部位、程度、原告の年齢、職業、収入、性別、家族関係等諸事情を考慮し、二五〇万円が相当と認められる。

5  物損 二三万四四八九円

成立に争いのない甲第七号証の一、二、原告本人尋問の結果によれば、本件事故で原告車が破損し、その修理のため、修理費二三万四四八九円を要することが認められる。

6  以上損害額合計 一九〇一万五四九二円

三  過失相殺

前記認定事実によれば、原告は、道路の中央から左の部分の左側に寄つて通行することなく、通行幅にさほど余裕もないのに、速度を落としている前車の右側方を連続して追い抜き、前車の速度を上回る時速約三〇キロメートル前後で進行し、前方を充分に注視せず、交差点及びその手前三〇メートル以内の部分では追越すため前車の側方を通過してはならないのに、本件交差点で被告車の右側方を通過して追い越そうとしたことなど、原告に落度があり、本件道路の形状、交通の状況等諸事情を考慮し、その六割を過失相殺するのが相当である。

過失相殺後損害額合計 七六〇万六一九六円

四  填補 五六八万八二五八円

填補額控除後損害額合計 一九一万七九三八円

五  弁護士費用 二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、弁護士費用を支払うことを約したことが認められるところ、本件訴訟の審理の経緯、認容額等から、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二〇万円が相当と認められる。

六  よつて、原告は、被告らに対し、連帯して二一一万七九三八円及びこれに対する症状固定後の平成二年一月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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